より信頼性の高い結果を得るための圧-容積研究の標準化

圧容積関係は、動物実験における心機能評価の標準的な手法です。この手法により、負荷に依存しない心機能の測定が可能となり、標準・疾患・治療後それぞれのモデルにおける心機能を最も明確に把握することができます。圧-容積研究における課題の一つは、この研究を実施し、発表するためのアプローチが標準化されていない点でした。

Dr. Oliver Wearingらによる最近の論文(以下、本論文)ではPV研究分野の各種文献について、研究室間で研究方法論に一貫性がないため、出版物を比較することは困難もしく不可能なことを指摘しております。重要な方法論的ステップが報告されず、評価された論文に一貫して含まれていたのは、18の重要な方法論的情報のうちの1つのみでした。圧-容積カテーテル測定の各過程は最終結果に影響を及ぼすため、方法だけでなく報告にも一貫性がない事実は、各実験の影響力を弱め、PV研究分野の拡大を阻害することになります。

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PVループイメージ

PVループのポイント

Oliverらは、既存のげっ歯類の圧-容積カテーテル研究をレビューし、方法、装置、消耗品のばらつきを評価し、標準化のための推奨リストを作成しました。この分野において手法の標準化がうまくいけば、今後のPV研究のインパクトは大きく改善されるでしょう。

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PV研究の論文には何を含めるべきか?

本論文では、実験結果を正確に解釈し、再現できるようにするため、4つのカテゴリーから成る18の方法論を挙げています。項目が多く思えるかもしれませんが、知見を正確に評価し、再現しようとする場合、特定性が成功の鍵となります。具体性がなければ、全く異なる条件で収集されたデータを比較することになり、誤った結論を導き出す可能性があります。


 

動物の詳細/実験セットアップ

  • 系統
  • 週齢・年齢
  • 動物の体積(または体表面積から間接的に算出)
  • 性別
  • 麻酔薬、投与量、投与方法/経路
  • 体温調節
  • 人工呼吸器の有無
  • PVデータ取得中の血液/呼気終末期ガスモニタリング
  • 開胸vs閉胸アプローチ

PVカテーテル

  • カテーテル測定原理(例:アドミタンス法/コンダクタンス法)またはメーカー
  • 容量校正の実施

データ収集

  • 収集/解析された安静時PVデータ期間
  • 実施/解析されたocclusion回数
  • データ収集サンプリングレート
  • 負荷非依存変数および𝝉に使用したモデルの種類

データ報告

  • PVデータ取得中の心拍数データ
  • PVデータ収集中の動脈圧
  • 収縮期/拡張期の負荷非依存パラメーター、および 𝝉。

 

実験間の差異を減らす

上記の方法論的な情報のほか、OliverらはPV研究をさらに連携させるための提言も行っております。ラボの実験デザインの整合性が高ければ高いほど、実験間の共通点が増え、分野全体の一体感が高まります。このような全体的なまとまりを改善することで、PV研究者はそれぞれの研究結果を比較しやすくなり、心機能の解明を加速させることができます。

麻酔薬

すべての麻酔薬はある程度の心血管系障害を引き起こすため、実験目的に応じて慎重に選択する必要があります。

  • イソフルラン: 最も一般的な麻酔薬で、その使いやすさと心血管系抑制作用の軽さから使用されております。しかし、血管拡張を引き起こし、収縮力と心拍数に悪影響を及ぼします。肺における強力な血管拡張作用があるため、右室PV試験には問題があります。著者らは、左心室試験において2 %未満の濃度を推奨しております。
  • バルビツール酸系薬剤:これらの薬剤、特にペントバルビタールには、心筋の活動や心拍数を直接抑制するなど、心血管系の抑制作用がよく知られております。
  • ウレタン: 比較的緩やかな心血管系の抑制作用で、長時間安定した麻酔を提供します。有意な肺血管拡張を起こさないため、右心室の検査に適しています。しかし、投与経路が重要であり、代謝に重大な悪影響を及ぼす腹腔内注射よりも静脈内注射が望ましいです。また、発がん性があり、使用が終末的な処置に限られております。

鎮痛薬と局所麻酔薬は、主麻酔薬の必要量を最小限にするために使用すべきです。薬剤、投与量、投与経路を明確に報告する必要があります。

 

換気

呼吸は胸腔内圧の変動を引き起こし、心充満圧に直接影響し、PVループ、特に拡張期パラメータと右室測定値を歪める可能性があります。

このような圧変動を標準化するためには、機械式人工呼吸器が望ましいです。可能であれば、短時間の「吸気ホールド」中に閉塞を行うことで、この交絡変数をなくすことができます。生理的換気を確保するために動脈血中ガス濃度をモニタリングすべきです。

関連項目 PVのヒントとコツ:マウスの圧-容積ループを測定するための専門家によるアドバイス

 

動物のばらつき

PV指標は動物の性別、年齢、体格、電気的ノイズ、カテーテル留置位置のわずかな違いなどの要因で変動します。また、同一動物の連続occlusion間でも重大なばらつきが観察されることがあります。

推奨事項

  • 適切なサンプルサイズを決定するために検出力分析を用いること(著者らは、56報のレビュー論文すべてにこの方法がないことを発見した)。
  • ノイズを減少させるため、容積信号に慎重かつ一貫してデジタルフィルターまたはスムージングを適用する。
  • 動物内のばらつきを考慮し、複数のocclusionから得られたデータを報告する。

 

容積の校正

PVカテーテルではコンダクタンス法またはアドミッタンス法で測定しますが、これはキャリブレーションプロセスによって容積単位に変換する必要があります。そのためには、拍出量を別途測定する必要があります。

アドミッタンス法では信号に対する心筋の寄与をリアルタイムで動的に分離できますが、コンダクタンス法ではパラレルコンダクタンスを推定するために高張食塩水を注入する必要があります。

一拍ごとの拍出量を測定する標準的な手法は、上行大動脈に設置した血管周囲トランジットタイムフロープローブですが、これには開胸手術が必要です。他の方法としては低侵襲性の心エコー検査もありますが、正確性に欠けます。

関連項目 PVループのキャリブレーションはアドミタンスとコンダクタンスのどちらを使うべきか?

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負荷非依存指標の決定

負荷に依存しない機能を評価するには、下大静脈を閉塞して前負荷を減らし、必要であれば腹部大動脈を閉塞して後負荷を増やすことにより、心臓の負荷条件を迅速に操作しなければなりません。

閉塞は、自律神経反射の活性化を避けるため、短時間(10~15秒)にすべきです。収縮期の指標については、下大静脈の閉塞を3回繰り返し行い、その間に血行動態がベースラインに戻るようにします。拡張期機能の完全な評価が必要な場合は、腹部大動脈の短時間閉塞を1回行います。

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前負荷減少

EDPVR,Ees,EDPVRを計算するためのIVC閉塞を用いた前負荷減少の模式図。

報告すべき主要な収縮期指標:

  • Preload-recruitable stroke work:心筋仕事と前負荷の関係。収縮末期エラスタンスよりも頑健な線形で、心室の容積による影響を受けにくい。
  • dP/dtmax-EDV:前負荷を指標とした収縮初期のパフォーマンスの指標。
  • End-systolic elastance:チャンバーの硬さの指標。その基礎となる関係(ESPVR)はしばしば曲線的であるため、Oliverと彼のチームは解析に非線形回帰モデルを使用することを推奨している。
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ESPVR

ESPVRと心収縮力の変化の模式図。

報告すべき主要拡張期指標

  • 拡張末期圧-容積関係(EDPVR):受動的心室硬化の指標。下大静脈閉塞と腹部大動脈閉塞の両方を行うことでその特徴が改善される。
  • タウ(τ):活動性(等容性)弛緩を測定する時定数。Oliverらの研究チームは,ロジスティックモデル(τLogistic)が最も頑健で負荷に依存しない計算方法であるとして推奨している。
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コンプライアンス変化

EDPVRの傾きの変化による左室コンプライアンスの変化を示した模式図。

PVデータの取得と報告

研究者は数千拍分のベースラインデータを1つの平均値に還元してしまうことが多く、拍動間の変動に関する貴重な情報を失いがちです。

推奨事項

  • 特に拡張期パラメータについては、信号の完全性を保つために最低2kHzのデータサンプリングレートを使用する。
  • 平均値のみを報告するのではなく、分散(標準偏差、範囲など)の指標とともにデータを提示する。
  • 関心のある指標について頻度ヒストグラムを提示することにより、データの分布を視覚化する。

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ガイドラインの詳細はこちらをご覧ください:

げっ歯類における心室圧-容積関係の評価ガイドライン >> 関連:心室圧-容積関係の評価ガイドライン

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