By:アリシア・マリン
てんかん患者の約3分の1は従来の薬物療法に反応しないとされています。こうした薬剤抵抗性てんかんの中には非常に微細な発作や、予測の困難さから、脳波計測を行わなければ完全に見逃されてしまうケースも少なくありません。遺伝子治療やケモジェネティクスといった新たな治療法を開発するためには、映像上で確認できる発作だけでなく、すべてのイベントを捉えることが不可欠です。
そこで重要な役割を果たすのがKahaテレメトリーです。自由行動下の動物において長期間かつ連続的にEEGを記録することで、実際の発作パターンの把握、無症候性イベントの検出、さらには介入が本当に有効であったかどうかを定量的に評価することが可能になります。薬剤抵抗性てんかんが抱える課題こそが、Kahaのようなツールが不可欠である理由なのです。
Kahaテレメトリーシステム
てんかん研究の進展において遺伝子治療ほど大きな可能性を秘めた分野は多くありません。スウェーデンのルンド大学ではマルコ・レドリ博士とその研究チームが、てんかんの根本原因にアプローチする革新的な治療法の開発に取り組んでいます。
イタリア出身のレドリ博士はこれまでのキャリアの多くを発作発生メカニズムの解明に費やしてきました。スウェーデンで博士号を取得し、ハンガリーで博士研究員としての研究を行った後、2016年にルンド大学へ戻り、自身の研究室を立ち上げました。現在は遺伝子治療を用いててんかん原性の理解を深め、最終的には発症を予防することを目指した研究を進めています。
てんかん治療の未来を探る
レドリ博士にとって遺伝子治療はてんかん治療における新たな選択肢であるだけでなく、医学研究全体における新時代の到来を意味しています。
「遺伝子治療はてんかんだけでなく、多くの疾患において未来の治療法になりつつあります。遺伝子変異を修復したり、治療目的で新たな遺伝子を導入したりすることが可能になるのです」
遺伝子治療の開発コストは依然として高いものの、一度の治療で生涯にわたる投薬が不要になる可能性を考えると、結果的にコスト効率が高くなる場合もあります。特に薬剤抵抗性てんかん患者にとって、こうした治療法は大きな注目を集めています。
発作制御に向けた化学的遺伝学的アプローチ
最近の論文において、レドリ博士の研究室は神経活動を制御するための化学的遺伝学的手法を検討しました。ケモジェネティクスとは特定の合成化合物にのみ反応するよう設計された受容体を用い、神経細胞を選択的に活性化または抑制する技術です。
「これらの受容体は、もはや本来のリガンドには反応しないように設計されています。その代わり、臨床使用がすでに承認されている合成化合物の極めて低濃度に反応します」
このアプローチを用いた実験では、脳スライス培養においててんかん様活動の低下が確認され、脳活動を選択的に制御し発作を抑制できる可能性を示す重要な概念実証となりました。
リアルタイムでの発作モニタリングとKahaテレメトリーの役割
有望な治療法の開発だけでは不十分です。それらが実際の環境下で発作活動を変化させることを証明する必要があります。そのために不可欠なのが長期EEG記録であり、レドリ博士の研究室ではKahaテレメトリーが重要な役割を担っています。
「in vivoでのてんかん研究において長期EEGは不可欠です。動物を観察するだけでは発作を検出できないことが多く、行動変化を伴わないイベントはEEGでしか捉えられません」
Kahaバイオポテンシャルテレメーターにより記録されたEEG発作データの例(本研究特有のデータではありません)。
Kahaテレメトリーを用いることで数週間にわたる連続記録が可能となり、発作頻度が予測不能に変動する発作クラスターの解析に不可欠です。
「通常は少なくとも3週間、場合によっては9週間にわたって記録を行います。Kahaではバッテリー寿命に制限されることがなく、その点が従来のシステムとの大きな違いです」
革新と責任の両立
ネットワークレベルでの脳活動変化を理解するため、動物モデルは依然として不可欠です。一方で、レドリ博士の研究室では、オルガノイドやin vitroモデルも併用し、可能な限り動物使用を削減する取り組みを進めています。
「てんかんは脳全体が関与するネットワーク疾患です。動物使用は最小限に抑える努力をしていますが、最終的には脳全体を研究する必要があります」
脳波電極埋め込みイメージ
Kahaテレメトリーによる長期EEG記録は、倫理的な研究推進にも寄与しています。
「同じ動物で治療前後の記録が可能なため、使用動物数を半分に減らすことができます」
テレメトリー導入を検討する研究者へのアドバイス
テレメトリーの導入を検討している研究者に対し、レドリ博士は、必要な外科的技術があれば既存の研究系に容易に組み込めると強調します。特にトランスレーショナルてんかん研究において、長期EEG記録は不可欠だと述べています。
「トランスレーショナルてんかん研究に取り組むのであれば、何らかの形でEEG記録を行う必要があります。Kahaテレメトリーなら、動物は通常のケージ内で自然な生活を送ることができます。拘束が必要だった従来の方法と比べると、大きな進歩です」と博士は語ります。
結論は単純明快です:
「長期EEGを検討しているのであれば、Kahaテレメトリーが最適な選択です」
てんかん研究の今後の方向性
今後についてレドリ博士は、てんかん患者の30から40パーセントに影響する薬剤抵抗性を回避するため、従来の薬理学的手法に代わるアプローチが必要だと考えています。特に標的を限定した局所治療が最も有望であると指摘します。
「遺伝子治療がすべてのてんかんを解決するわけではありませんが、発作発生部位を特定できる局所性てんかんでは、革新的な治療となる可能性があります」と博士は述べています。
また、過剰に活動する脳回路のバランスを回復させる抑制性ニューロン移植を用いた幹細胞治療についても、すでに初期の臨床試験が進行している点を挙げ、その将来性に言及しています。
より良い治療法を求めて
レドリ博士の研究室では現在も、神経ペプチドや神経栄養因子を新たな治療手段として研究しています。将来的にはこれらの知見を遺伝子導入技術と組み合わせ、てんかん患者の生活を実際に改善できる治療法の開発を目指しています。
困難の多い研究分野でありながらも、博士は前向きな姿勢を保ち続けています。
「研究は困難の連続です。九割はうまくいきません。しかし、その一割が前進する原動力になります。長期的なビジョンを持ち、モチベーションを維持できれば、結果はついてきます」
マルコ・レドリ博士
マルコ・レドリ博士
てんかんセンター長
スウェーデン、ルンド大学
マルコ・レドリ博士はスウェーデンのルンド大学で、てんかんの新規遺伝子・細胞治療法の開発に焦点を当てた研究グループを率いている。彼の研究室では、神経生理学、分子生物学、Kahaテレメトリーを用いたin vivo研究を統合し、てんかんとてんかん発症のメカニズムの解明と革新的な治療法を検証している。